Friday, February 21, 2014

二宮正治小説:小泉氏の夜:第5回

 小泉氏は先輩議員の、
「おれには二十八歳のガールフレンドがいる」
 この言葉に少なからずショックを受けていた。
「君は若い人の心が分からないのだ」
 この言葉にも。
小泉氏は気がついたら東京の下町を歩いていた。
「オレは東京の隅から墨まで知っているつもりだったが、ただ単に独りよがりだったのか」
 こう思うとむなしかった。
「七十を過ぎての社会勉強をするか」
 小泉氏は全然知らない下町のスナックに一人で飛び込んだ。
「はじめてきたんですけどいいですか」
「いいですよ」
 店のママらしき女性が小泉氏を暖かく迎えてくれるのだった。
「何飲みますか」
「水割りを」
「分かりました」
 小泉氏の七十歳を過ぎての社会勉強が始まる。


*この物語はフィクションです。登場人物は存在しません。

Saturday, February 15, 2014

二宮正治小説:小泉氏の夜第4回

 金曜日の夜小泉氏は先輩議員の超大物と話をしていた。
「先輩、見事に負けちゃったよ」
 先輩議員甲は苦笑しながら、
「もう忘れろよ、今からの事を考えろ」
 こう言った。
今度は小泉氏が苦笑しながら、
「そう言われてもねえ。こんなの初めてだから」
 甲は、
「小泉君、慰めてくれる女性はいないのかね」
 と小泉氏に尋ねた。
「いませんねえ」
「彼女を作れよ」
「先輩はいるんですか」
「ああ、二十八歳の彼女が」
「え・・・・・・・・」
 小泉氏は我が耳を疑った。
「二十八歳」
「そうだ」
 二人は水割りを飲みほした。
「小泉君、君とその同志の敗北はなあ、若い人たちの心をつかめなかったんだ。おれの言う意味が分かるか」
 小泉氏は言葉が返せない。
「どうやってつくるんですか」
「それは君が考えるのだ。それだけの知識と経験はあるはず」
 小泉氏はため息をついた。 

Friday, February 14, 2014

二宮正治小説:小泉氏の夜第3回

小泉氏を小学校の同級生が励ましてくれた。
横須賀市の小泉氏の自宅近くの居酒屋である。
「ご苦労さんでした、純ちゃん」
「おれ負けちゃったよ」
「負けたのは残念だったけど、純ちゃんは七十歳以上の人間の気持ちを代弁してくれたんだ。今回純ちゃんの七十を過ぎた人間の魂の叫びは日本人にいや世界に伝わったと思うよ」
「でも負けたんじゃなあ」
「純ちゃん、今回の戦いは有意義だったよ」
 小泉氏とその同級生はお互いの目を見つめ合った。
「ありがとう」
 小泉氏の目には光るものがあった。
その夜小泉氏は深い眠りについた。
「私が愛してあげる」
「ありがとう」
 夢の中で若い女性が小泉氏に迫っている。
首筋から乳首にかけて若い女はやさしく口づけをするのだった。
「あー、あー、あー」
 小泉氏の口から激しいあえぎ声が漏れた。
小泉氏は少年のような夢を見ているのだ。


*この物語はフィクションです。登場人物は存在しません。似ている名前の人がいてもそれは単なる偶然です。

Thursday, February 13, 2014

二宮正治小説:小泉氏の夜第2回

 小泉氏は自宅に帰りベッドに入っても寝つかれなかった。
「今まではあの状態で大勝したんだ、なぜ」
 目をつむってもこの思いが頭から離れない。
そんな時、
「純ちゃん、お疲れでした」
 と声をかけてくれる女性がいた。
小学校の同級生である。
「負けちゃったよ」
 小泉氏は声を震わせてこう言った。
「次の事を考えて」
「ああ」
「あなたのエネルギーを必要としている人はこの日本には多いのよ」
「分かっている」
「純ちゃん、彼女はいるの」
「いいや」
「彼女をつくりなさいよ」
「うん、一人寝は寂しいからなあ」
 初めて小泉氏から笑みがこぼれた。
「一人寝ばかり続けたから負けたのかなあ」
「そうかもね」
 小泉氏と同級生の女性は大笑いするのだった。



*この物語はフィクションです。登場人物も存在しません。もし似ている人がいてもこの小説とは何の関係もありません。 

Wednesday, February 12, 2014

二宮正治小説:小泉氏の夜第一回

「ああ負けてしまった」
 小泉氏は都内のホテルのラウンジでブランデーを飲みながらこう呟いた。
絶対の自信を持って望んだ都知事選だっただけに、小泉氏のショックは計り知れないものがあった。
「全力を尽くしたんだがなあ、なぜ」
 小泉氏は何度もこの言葉を繰り返した。
だが、答えは出ない。
どっかから、
「小泉も終わりだ」
 この声が聞こえて来る。
声の主を見ると大新聞の記者だった。小泉氏は大反撃をしてやろうと思ったが次の日にマスコミに、
「小泉氏選挙に負けた腹いせに新聞記者に八つ当たり。こんな事を書かれても困る」
 こう思って必死でこらえたのだった。
そして、
「終わってたまるか、ぼくの人生は今から始まるんだ」
 必死でこう言い聞かせた。
「見ていろ、おれはやる」
 小泉氏はブランデーをぐっと飲み込んでこう呟いた。


*この物語はフィクションです。登場人物は存在しません。似ている人がいたらそれは単なる偶然です。
重ねて申しますがこれはフィクションです。